私たちは日常生活の中でフリガナを使う場面が数多くあります。
たとえば、ネットの入力フォームから役所の申請書類まで、名前を書くたびにフリガナを求められます。
このように日常生活で何気なく使うフリガナですが、ご自身の「正しいフリガナ」をご存じでしょうか?
実は、これまで、フリガナは戸籍に載っておらず、法律上の明確な根拠がありませんでした。
しかし、令和5年6月9日に戸籍法1と住民基本台帳法2が改正され、令和7年5月26日以降は戸籍に氏名のフリガナが記載されることになりました。
これまで法的根拠のなかったフリガナに、初めて法律上の裏付けが与えられます。
そのため、令和7年5月26日から令和8年5月25日までの1年間、ご自身のフリガナを市区町村に届け出る手続きが始まります。
自らの意思でフリガナを届け出られる一生に一度の貴重な機会です。
手続きは間違いのないように行いましょう。
本記事では、業務歴20年の自動車登録専門の行政書士が、戸籍にフリガナが記載されるまでの手続きの流れと、私たちの生活への影響について解説します。
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なぜ戸籍にフリガナが記載されるのか
フリガナはクレジットカードの申込、銀行口座の開設、アカウントの登録、就職活動のエントリーシート、携帯電話の契約などあらゆる契約や申込、行政手続きなどに入力を求められる情報です。
入力されたデータは、氏名や生年月日などと併せてデータベース化され電子情報として保存されます。
データベース上では氏名や住所、フリガナ、生年月日などのキーワードを組み合わせてデータを特定し管理します。
ここでキーワードとしての使いやすさを氏名とフリガナの特性から比較してみましょう。
氏名とフリガナの特徴の違い
氏名の特徴
- 氏名は漢字・カタカナ・ひらがなが混じり合っており、表記ゆれが生じる。(例:フリガナ「ヤマダカオリ」→氏名「山田香」「山田かおり」「山田カヲリ」など)
- 漢字には外字や旧字体3、異字体4などがあるため管理や構成が複雑になりやすい。
- 漢字は平仮名に比べて複雑なつくりをしており、PC上で通常のフォント5では入力できない文字があるため、検索のキーワードとしては使いづらい。
フリガナの特徴
- 使用する文字は「ひらがな」だけであり管理が容易である
- 漢字に比べて「ひらがな」は作りが単純で種類も少ない
- ローマ字への変換も簡単である
これらの特徴から、個人を特定するためのキーワードの一つとしてフリガナは氏名に比べて有利な特性が多いといえます。
このような特徴を持つ個人情報でありながら、これまではフリガナの取扱いについて法律上の明確な決まりがありませんでした。
言いかえると、「あなたの氏名の読み方は?」という問いに「私の氏名のフリガナは〇〇〇です」という証明ができないということです。
正しいフリガナが決まっていない以上、キーワードとして使用するうえで不正確性が残ることとなります。
このことは、行政のデジタル化を進めるうえで大変不都合です。
そこで、令和5年6月9日に戸籍法及び住民基本台帳法が改正され、令和7年5月26日以降、戸籍の記載事項に氏名のフリガナが追加されることとなりました。
併せて、住民票(住民票の写し)の記載事項にもフリガナが追加されます。
わが国で初めてフリガナが法制化され、今後は戸籍の記載によりフリガナが戸籍により公証6されることとなりました。
戸籍にフリガナを記載するまでの手続きの流れ
通知書の送付とフリガナの確認
令和7年5月26日以降、戸籍に記載される予定の氏名のフリガナは、本籍地の市区町村から郵送される「戸籍に記載される振り仮名の通知書」で確認できます。
通知書には戸籍を管理する本籍地の市区町村が把握するフリガナが記載されています。
なお、このフリガナは、マイナポータル上で確認することもできます。
通知されたフリガナが正しい場合は、特に何もしなくても、そのまま戸籍に記載されます。
この場合、戸籍にフリガナが記載されるタイミングは令和8年5月26日以降順次となります。
戸籍に記載されたフリガナは、住民票にも順次記載されます。
フリガナの届け出が必要な二つの場合
フリガナを確認したら、次の二つの場合に届出を行います。
フリガナが間違っており、正しいフリガナを届出する場合
- ・ フリガナが間違っており、正しいフリガナを届出する場合
- ・ フリガナは正しいが、戸籍に早く記載されたい場合
戸籍に早く記載される方法
通知書に記載されたフリガナが正しい場合でも、フリガナの届け出を行うことで、いち早く戸籍に記載されます。
フリガナが記載された戸籍事項証明書や住民票の写しが、早く欲しい場合は、市区町村窓口又は郵送で書面による届け出の手続きを行うか、マイナポータルからオンラインで届け出の手続きを行いましょう。
フリガナが誤っている場合の手続き
通知されたフリガナが間違っている場合などは、正しいフリガナを届け出ましょう。
「氏」(姓、名字)のフリガナについては戸籍の筆頭者が届け出ます。
「名」のフリガナについては、それぞれの個人が届け出ます。
届け出の方法は市区町村の窓口で届出用紙をもらい、記入して提出(郵送も可能)する方法と、マイナポータルからオンラインで届け出る方法があります。
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届け出の手続をしないまま放置してしまうと、誤ったフリガナがそのまま戸籍に記載されてしまいます。
戸籍に記載されたフリガナを変更する場合には、原則として家庭裁判所の許可が必要です。
ただし、届け出をしないまま、戸籍にフリガナが記載されてしまった場合は、救済措置として一度限り家庭裁判所の許可がなくてもフリガナの変更の届け出をすることができます。
届け出ができないフリガナもある
氏名のフリガナは、どのようなものでも認められるわけではありません。
氏名として使われる漢字や仮名などの読み方として一般に認められているものでなければなりません。
社会を混乱させるものや、差別的・卑わい・反社会的な読み方など、社会通念上相当とはいえないものはフリガナとして認められません。
具体的な例示(出典:法務省 戸籍にフリガナが記載されますQ&A)
- 漢字の意味や読み方との関連性をおよそ又は全く認めることができない読み方(例:太郎をジョージ、マイケル)
- 漢字に対応するものに加え、これと明らかに異なる別の単語を付加し、漢字との関連性をおよそ又は全く認めることができない読み方を含む読み方(例:健をケンイチロウ、ケンサマ)
- 漢字の持つ意味とは反対の意味による読み方であったり(例:高をヒクシ)
- 漢字の持つ意味や読み方からすると、別人と誤解されたり読み違い(書き違い)と誤解されたりする読み方(例:太郎をジロウ)
一般的でないフリガナを用いている場合は、読み方が通用していることを確認できる資料(パスポート、預貯金通帳、健康保険証、資格確認書等)を提出する事で届け出ができます。
届出書による手続き
市区町村の窓口で配布されるフリガナの届け出書類には「氏の振り仮名の届」と「名の振り仮名の届」2種類の書式があります。
「氏の振り仮名の届」は戸籍の筆頭者が、戸籍に入っている全員の氏についてフリガナを届出ます。
筆頭者が亡くなっている場合などは、その配偶者が届け出ます。
筆頭者、配偶者共に亡くなっている場合などはその子が届出人になります。
一方、「名の振り仮名の届」は各個人が、自分自身の名についてフリガナを届け出します。
未成年者のフリガナの届け出は親権者が行うこととなります。
ただし、戸籍のフリガナの届け出は身分行為と考えられますので、15歳以上であれば、子自身が単独で届出することもできます。
マイナポータルからの手続き
マイナンバーカードを持っており、インターネットの環境が整っている場合は、マイナポータルからの手続きが便利です。
オンラインですべての手続きが完了します。
届け出に必要なものを準備して、マイナポータルにログインし、「すべての手続」→「戸籍」→「戸籍のフリガナを届出る」と進んで届出を行います。
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届け出期間は令和7年5月26日から令和8年5月25日までの1年間です。
届け出に必要なもの
- ・マイナンバーカード
- ・ICカードリーダライタまたはマイナポータルアプリに対応したスマートフォン
- ・マイナンバーカード申込時に設定した利用者証明用パスワード(4文字)と券面事項入力補助用パスワード(4文字)
- ・マイナンバーカードに格納されている有効な署名用電子証明書とパスワード(英数字6~16文字)
- ・申請対象者の正しいフリガナと住所
- ・連絡可能なメールアドレスと電話番号
引越し等の手続きが完了していないなどマイナンバーカードの情報が古い場合は、フリガナの届け出ができない場合があります。
届出前に必要な手続きとマイナンバーカードの更新を済ませてください。
戸籍フリガナ届出についてのお問合せ先
法務省 戸籍フリガナ専用ページ
法務省 戸籍フリガナ専用コールセンター 0570-05-0310
令和7年5月26日(月)~令和8年5月26日(火)の午前8時30分~午後5時15分
※土曜、日曜、祝日、年末年始(令和7年12月30日~令和8年1月3日)は除きます。
フリガナが戸籍に載ることで私たちへの生活への影響は?
届けられたフリガナは、戸籍や住民基本台帳以外のデータベースにも反映されていく事になるでしょう。
そのため、検索キーワードとしてフリガナが使えるようになり、データベース間での連携が容易になります。
フリガナが戸籍に記載されることで次のような効果が期待できると言われています。
- 住民票・マイナンバーカード・パスポートなどのオンライン申請フォームで、人名の読みを自治体側がシステム上で照合できるようになるため、入力ミスが減り、審査スピード向上する。
- 異体字や難読氏名でも読みが一意になるため、災害時などに家族・友人がフリガナ検索で早期に安否情報を把握できる
- 保険証・診察券が戸籍データと同期できるため、同姓同名/難読氏名の取り違えを回避し、医療機関等での検査結果や投薬のミスを低減できる
- 金融機関における振込・口座開設・口座名義変更時の本人確認やマネーロンダリング対策が強化され、処理時間が短縮
- 正確なフリガナ辞書が国家インフラとして整備されることでAIや音声アシスタントの人名読み上げ精度が向上する
- 「名寄せ」が容易になり、学籍や資格情報、資産情報等の一括管理が可能となる。
- 年金や求職、社会保険など各種公的/民間サービスに連携でき、書類提出回数や再入力が減る。
まとめ
氏名のフリガナが戸籍に記載されることにより、本人確認の精度が向上し、行政・医療・金融・災害救助など幅広い分野でのデータ連携が広まるでしょう。
戸籍へのフリガナ記載は、単なる「フリガナの明記」にとどまらず、日本社会のデジタルインフラの土台づくりといえます。
正しいフリガナが公的に証明されれば、書類の記入ミスや入力ミスが減り、本人確認もワンクリックで完了するなど、私たちの日常生活における手続きの負担とリスクは軽減し、オンラインサービスの利便性も飛躍的に向上していくことでしょう。
令和7年5月26日から始まる1年間の届出期間は、一生に一度、自分の名前を自分で確定できるチャンスです。
通知書が届いたら内容を必ず確認し、オンラインや窓口でスムーズに届出を済ませましょう。
[追記] 行政書士のお仕事とフリガナについて
自動車登録の仕事をしていると、実に様々な氏名に接する機会があります。
官公庁の手続きによっては申請書や税申告書等の氏名にフリガナの記載が必須とされることが多々あります。
実際に、自動車登録の電子申請を行う場合もアプリケーションの仕様上フリガナの入力は必須です。
住民票の写しや印鑑証明書にフリガナの記載があれば問題ありませんが、自治体によってフリガナの記載があるかどうかはまちまちでした。
氏名に使われる漢字には同音異読が多く存在します。
例えば「新谷」という苗字は“あらたに”、“しんたに”、“にいや”、“あらや”、”にいたに”、“にいだに”、“しんがや”など多くの読み方があります。
また、「一尺八寸」と書いて“かまつか”、「釈迦郡」と書いて“しゃかごおり”、「四月一日」で“わたぬき”、「東海林」で“しょうじ”など難読姓も存在するため、簡単に予測することができません。
名前にいたっては、さらに多くの読み方があり、「大翔」という名前は実に18種類もの読み方がある事が確認されています。
また、名前には当て字を用いたりすることもあるため、漢字の意味だけを見て正確なフリガナを知ることは困難です。
そのため、ご本人にお電話やメールなりでフリガナの確認をするなどの手間がかかり、閉口することもしばしばです。
これからは、あらゆるデータベース間でフリガナや生年月日、マイナンバーなどを用いた連携が行われ、行政手続きが効率的に行われてゆくことになるでしょう。
日常生活はますます便利になるとともに、私たち行政書士の仕事にも少なからず影響があることでしょう。
少なくともこれからは、フリガナで悩むことは少なくなりそうですね。
- 戸籍法第13条第1項第二号 ↩︎
- 住民基本台帳法第7条第1項第一の二号 ↩︎
- JIS規格第一水準文字、第二水準文字に含まれない漢字をいいます。 ↩︎
- 「高」と「髙」、「斉」と「齊」など表記が違うが同じ漢字を意味する文字のことです。 ↩︎
- 活字やコンピュータにおいて扱われる文字のうち、統一された書体や大きさの文字のセットのこと ↩︎
- 公の機関が証明することで、法律上の争いを防止する公的サービスのことです。 ↩︎